
運動をなかなか始められない、継続できない。そう考えている人は多いようです。
「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」によると、運動習慣を妨げる理由として最も多い回答は「仕事(家事・育児等)が忙しくて時間がないこと」、次いで多い回答は「面倒くさいこと」という結果に。現代人がいかに忙しくて、運動に割く時間や気力がないかがわかります。
一方で、厚生労働省が発表した「健康づくりのための身体活動・運動ガイド2023」において、成人は「1日60分以上の歩行、またはそれと同等以上の身体活動を行うこと」と「息が弾み汗をかく程度以上の運動を週60分以上すること」が推奨されています。
60分以上。その基準を見て「自分には難しい」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、時間がないことを理由に運動を諦める必要はないのです。ほんの少しであっても、運動が無意味ということはありません。
「1日の身体活動量が2~3分増加すると0.8%、5分なら1.6%、10分なら3.2%、生活習慣病や生活機能低下のリスク低減が期待できる」という結果もあります。
つまり数分の運動であっても、やらないよりは実践したほうが健康に近づくことが科学的にも証明されているのです。
短時間運動は、忙しい毎日の中でも無理なく続けやすいため、運動を習慣化するきっかけにもなります。
60分以上の運動をまとめて行うとなるとハードルが高いかもしれませんが、近年の研究では、例えば1日に30分の運動を1回しても、10分の運動を3回しても健康効果に差はないことがわかっています。加えて、運動でなくても、日々の生活の中での移動や家事も、身体活動・運動の時間として換算できます。
ウォーキングの時間が短時間しか取れなくても、家の掃除をしたり、お風呂上がりにストレッチをしたりと、体を動かす時間を積み重ねることによって、しっかり効果を得ることができるのです。
日々の生活の中で、プラスで5分、10分と体を動かす意識を作ることが大切です。
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こまめに体を動かすことが習慣化することによって、「体のコンディションが前よりもいい気がする」「気持ちがスッキリする」といった小さな変化を感じられるようになります。変化に気づけると継続したくなるため、良い循環が生まれやすくなります。
メリットは、前述の「短時間でも健康効果を得られる」の他にも、「時間がなくてもできるので継続しやすい」「手軽にリフレッシュできる」「質の良い睡眠に繋がりやすい」など様々です。
一方、大幅な減量や筋肉増強を目指す場合は、短時間運動だけでは成果につながりにくいため、プラスでしっかり運動や食事管理を行なっていく必要があります。
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短時間のトレーニングで変化を感じたいのであれば、筋力トレーニングがおすすめです。
なぜなら、一般的に筋トレを行う際、10~15回×3セットが推奨回数として提示されることが多いですが、これをやるだけであれば5分もあればできてしまうからです。
また、筋肉を増やすことで基礎代謝が上がり太りづらい体づくりが可能になったり、筋力不足によって体のバランスが悪くなることで起きる関節の痛みなどの予防にも役立ちます。
筋力トレーニングをこまめに積み重ねることによって健康的な体づくりが可能になります。
短時間のトレーニングで、できるだけ大きな効果を出したい場合には、「大きな筋肉を使うこと」と「複数の関節を使うこと」を意識してみましょう。「大きな筋肉」とは、上半身だと三角筋(肩周りの筋肉)や大胸筋(胸周りの筋肉)。下半身では大腿四頭筋(太ももの前にある筋肉)、大臀筋(お尻にある筋肉)などがあります。これらの大きな筋肉を鍛えることで短時間でも効果的にエネルギーを消費することが可能になります。

ジムなどにあるトレーニングマシンは、筋肉に効果的に働きかけるものなので、実は運動初心者こそおすすめです。
筋力トレーニングは、鍛えたい部位に負荷をかけてこそ効果が出るもの。しかし、「鍛えたい部位の筋肉をしっかりトレーニングする」ことは、意外と難しいことなのです。
例えば、腹筋をしているのに首や腰が痛くなるといった経験はないでしょうか。運動初心者はこのように鍛えたい部位と別の箇所に力が入ってしまうケースがありますが、マシンを使うことで効かせたいところを効果的に鍛えやすくなります。
三角筋であればショルダープレス、大胸筋はチェストプレス。大腿四頭筋と大臀筋を同時にトレーニングできるレッグプレスなど、効かせたい部位にあったマシンを使ってみましょう。15回×3セット、ちょっと重いなと感じる負荷で行います。3セット行ったとしても2~3分で済むので、まさに短時間運動にピッタリです。
大殿筋(お尻にある筋肉)や大腿四頭筋(太ももの前面にある筋肉)といった大きな筋肉や足首・膝関節を使って行うスクワットも自宅で気軽にできる運動としておすすめです。さらに、体幹(首の下から股の付け根までの胴体部分)を鍛えられるのもポイント。
スクワットが辛い場合には、椅子に浅く座り、足を肩幅に開いた状態で立ったり座ったりを繰り返すだけでも効果があります。まずはできることから始めて、徐々に負荷を増やしていきましょう。
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上半身の大胸筋(胸周りにある筋肉)や三角筋(肩周りにある筋肉)が鍛えられる腕立て伏せも自宅でのトレーニングとしておすすめですが、腕立て伏せはある程度筋力がないと難しい運動でもあります。
床面で腕立て伏せをするのが難しい人は、壁を使った腕立て伏せを実践してみましょう。壁に向かって立ち、両手を壁についた状態で、肘を外側に開きながらゆっくり胸を壁に近づけたら、元の位置に戻すを繰り返します。
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5分あれば、こういった運動を10回×3セット以上繰り返すことができます。
一般的に筋トレは週2~3回がおすすめとされているのは、筋肉を休ませることが重要だからです。負荷をかけて行う筋トレは、一時的に筋繊維を傷つける行為。修復を経て筋肉は強くなるため、毎日行うと筋肉の修復を阻害してしまいます。同じ部位をトレーニングする場合は、2~3日間を空けて休息日に充てましょう。
しばらくは継続できていたけど、最近忙しくて筋トレができていない。そういった場合でも、諦めるのはまだ早いです。
筋トレを一時休んだ場合でも、トレーニングを再開すると、筋肉が継続していた頃の状態に速やかに戻ることが、複数の実証実験で明らかになっています。できるところから再開してみましょう。
有酸素運動に関しては、「運動開始から20分が経った頃から、エネルギー源が体脂肪に切り替わる」と聞いたことがある人もいるかもしれません。まとまった時間を確保してやらないと意味がないということはなく、前述の通り、細切れで行っても脂肪燃焼効果があるとされています。
「15分を2回」や「10分を3回」「5分を6回」など、自分に合ったペースで「足し算」することを意識しながら運動してみましょう。
忙しくて時間がない中で運動を始めるのは、なかなかハードルが高いもの。最初から高い目標を掲げてしまうと、長続きさせることが難しくなってしまいます。まずはスキマ時間を活用して少しの時間だけでも、運動してみましょう。
短時間運動を積み重ねることで健康効果が得られることは科学的にも証明されていること。続けているうちに効果を実感し、運動が楽しくなっていくはずです。楽しめるようになると、さらに継続しやすくなるでしょう。
<参考>
厚生労働省「令和元年 国民健康・栄養調査結果の概要」運動習慣改善の意思別、運動習慣の定着の妨げとなる点(20歳以上、男女計)
運動基準・運動指針の改定に関する検討会 報告書(15ページ、39~40ページ)