
肩こりとは、首すじ、首のつけ根から肩または背中にかけて、痛みやハリ、こりなど不快感が生じる症状の総称です。「令和4年国民生活基礎調査」の「性別に見た有訴者率の上位5症状」の結果を見ると、男女とも「腰痛」についで「肩こり」を自覚している人が多く、特に女性は肩こりに悩む人が多い症状であることがわかります。

出典:厚生労働省「令和4年国民生活基礎調査」「性別に見た有訴者率の上位5症状」
私たちの体は全身でバランスを取っていますが、首や肩の周りの筋肉には、常に大きな負担がかかっています。以下のような原因が、肩こりにつながると考えられます。
成人の頭部は約4~5kg、片腕の重さは体重の6%(50キロの人で約3kg)ほどあるといわれています。首と肩の周辺の筋肉は、これらの重みを常に支え続けているため、大きな負担がかかります。
特に前かがみの姿勢では、頭部の重みによる負担が通常の3~4倍にもなり、首や肩の筋肉に過度な緊張が生じます。
パソコンやスマートフォンでの作業などで、首を前に出し、肩が内側に丸まった姿勢が続くと、本来滑らかに動くはずの首と肩の周辺の筋肉が硬くなってしまいます。
また、なで肩の人は特にこうした傾向があり、余計な負担がかかりやすい状態にあります。
長時間のパソコンやスマートフォンの作業は、姿勢の乱れのほか、目の周りの筋肉の緊張にもつながります。デバイスの画面を見続けことでまばたきが減ると、目の痛みやかすみ、乾燥、充血などを伴う眼精疲労になりやすくなります。眼精疲労による自律神経の乱れは、首の肩周りの筋肉の緊張や血行不良にもなり、肩こりを誘発します。
年齢とともに肩周りの組織の柔軟性が失われ、関節の動きが滑らかでなくなっていくことで肩こりが起こる場合もあります。肩の関節には関節包という袋があり、ここにある軟骨や滑膜(かつまく)によって、肩はスムーズに動きます。しかし加齢にともない、関節包の周りの膜は段々硬くなっていき、肩や腕を上げるだけで痛みが生じてしまうのです。更年期のホルモンバランスの変化も、こうした症状に影響を与える可能性があります。

肩こりは、腕が上げにくい、上がらないなど日常生活にも不便さを感じさせます。
肩こりによって動きが制限されて、肩や首の筋肉がますます硬くなると血行不良になり、脳への血液循環も悪くなります。これにより脳や神経が正しく機能しなくなり、緊張型の頭痛や吐き気、めまいなどの新たな不調につながる可能性があります。
こうした症状は、集中力や仕事や家事の効率の低下のほか、睡眠の質を落とすことにもつながります。肩こりは慢性化するほど、痛みや全身への悪影響が強くなっていく可能性があることを覚えておきましょう。
肩こりを予防するには、肩周りの筋肉を中心に鍛えたり、動かして血行を促進することが大切です。筋力がつくと、筋肉が天然のコルセットのような役割を果たし、良い姿勢を維持しやすくなります。姿勢が良くなることによって、首や肩への負担が軽減され、肩こりの予防に役立つのです。
また筋肉量が増えると、筋肉を動かす際にポンプ作用が働いて血流も良くなり、肩周りに溜まった老廃物を流して凝り固まった筋肉がほぐれやすくなります。
週2~3日の筋力トレーニングを行い、肩周りを中心に全身の筋肉を満遍なく行うことで、結果的に肩こり予防にも良い効果をもたらしてくれます。
肩こりによって体の動きが制限されると、活動量が減少し、それによってさらに筋肉が固まるという悪循環に陥りやすくなります。肩こりが気になるようになったら、肩周りの筋肉をほぐし、胸を開くような動きを行ってみましょう。
筋肉をほぐし、柔軟性を高めることは、肩こり予防の基本となります。特に、猫背や内向きの姿勢によって固まりやすい首と肩、胸周りの筋肉をほぐすことが大切です。最も手軽に始められるのが、大きく肘を回して胸を開くストレッチです。肩甲骨の動きを感じながら、力を入れずにゆっくりと行うことがポイントです。
テレビを見ている時や仕事の合間など、日常生活の中でこまめに行うことで効果が期待できます。
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壁に沿って立ち、腕を後ろに伸ばして手のひらを壁につけます。ゆっくりと手のひらを上に向けたら、呼吸をしながら30秒その状態をキープします。内側に丸まりがちな肩が開き、血行促進が期待できます。左右それぞれ5回程度行いましょう。

無理にストレッチをすると逆効果になる可能性があります。筋肉は強く伸ばされすぎると緊張が高まってしまうため、痛みを感じない範囲でゆっくりと行うようにしましょう。
また、水泳もおすすめです。特に背泳ぎは、水の浮力によって肩への負担を軽減しながら、自然と肩甲骨を大きく動かすことができます。仰向けの姿勢で泳ぐため、普段前かがみになりがちな胸を開く効果も期待できます。クロールも、肩を大きく回す動作で血行を促進できますが、はじめは無理のない範囲でゆっくりと行うことが大切です。
椅子に座る時は、骨盤を土台として、その上に背骨がまっすぐ伸びているイメージを持ちます。筋肉で無理に支えようとせず、骨格で支えるイメージを持つことがポイントです。ただし、常に同じ姿勢をキープし続ける必要はなく、時々意識的に正す程度で十分です。

同じ姿勢を長時間続けることは筋肉が硬くなる要因になります。デスクワークが多い方は、1時間に1回程度は軽く体を動かすことをおすすめします。肩を回したり、軽くストレッチをしたりするなど、簡単な動きでかまいません。子どもが遊ぶような感覚で、体を揺らしたり、ぶらぶらと動かしたりするだけでも、筋肉をほぐす効果があります。
首や肩周りを温めると、筋肉の緊張を和らげることができます。37~40℃程度のぬるま湯に15~20分ほど浸かると、温熱効果と水圧による軽いマッサージ効果がどちらも働き、筋肉の血行促進が期待できます。
肩こりは、誰にでも生じる可能性があります。ひどい時は、頭痛やめまい、吐き気といったさまざまな不調の原因にもなってしまうので、運動習慣とセルフケアで、早めに予防していきましょう。
ストレッチや筋トレは、肩こりの予防だけでなく、体のさまざまな辛い症状の緩和にも効果的です。まずは無理のない範囲でできることから始めていきましょう。
〈参考〉