
膝は、私たちの体重を支えたり、地面からの衝撃を吸収したりする重要な部位です。膝関節は、関節軟骨(かんせつなんこつ)という軟骨にその表面を覆われています。この関節軟膏が滑らかであれば、膝はスムーズに動かすことができます。

関節軟骨は、元々は表面がツルツルとした滑らかな組織ですが、年齢とともにその状態が失われ、次第に軟骨自体が削れていきます。その結果、膝が動かしにくくなったり、痛みが生じたりします。
膝の痛みをはじめとする関節の問題は近年増加傾向にあり、厚生労働省の「2022(令和4)年 国民生活基礎調査」の結果によると、「手足の関節が痛む」と回答している割合は、男性で約4割、女性は約7割となっています。
膝の痛みは加齢によって、誰しも感じる可能性がある痛みといえるでしょう。複数の要因が重なり合って発症することが多く、主な要因として以下が挙げられます。
膝の動きをサポートしている軟骨は、加齢とともに徐々に摩耗して表面が削られていきます。軟骨の欠片の刺激によって炎症が起きると膝に痛みが生じます。
また、膝関節は特に内側に負担がかかりやすく、日本人は内側の軟骨から劣化が進行する「変形性膝関節症」を発症することが多いとされています。一度傷んだ軟骨は自然には回復しない組織であるため、進行性の変形を起こしやすい特徴があります。
ただ歩くだけでも、膝には体重の2~3倍もの負担がかかっています。さらに階段の上り下りでは5~6倍もの負担がかかるとされています。体重が多いほど膝への負担も増えていくため、特に肥満の方は、軟骨の劣化スピードが早いと考えられています。
また、膝に強い衝撃が加わるスポーツや重労働なども、軟骨の損傷を引き起こす要因となります。
大腿四頭筋(太もも前面の筋肉)が衰えると、膝はぐらぐらと不安定な状態になります。膝関節がしっかり安定していないと、歩くたびに小さな振動が膝に加わっていきます。
こうした小さな負担の積み重ねによって膝関節への負担が徐々に蓄積されていき、ある日突然強い痛みを引き起こす場合があります。

膝の痛みは、単なる部分的な痛みの問題だけでなく、日常生活のさまざまな面に大きな影響を及ぼします。
例えば、膝の痛みにより立ち上がったり、歩いたりするのが辛くなると、外出や趣味の活動を控えるようになり、行動範囲が段々と狭まってしまうことも。特に階段の上り下りに支障が出ると、行動がさらに制限され、徐々に活動量が減少していきます。我慢の積み重ねは精神的なストレスにもつながっていきます。
また、活動量の低下は下半身の筋力低下を引き起こしやすくなります。太ももなどの筋力が弱ると膝への負担が増していき、痛みを悪化させるという悪循環に陥りやすくなります。また、転倒リスクの増加にもつながり、捻挫や骨折などのケガをはじめ、そこからさらに重大な健康問題を引き起こす可能性もあります。
最初は軽い膝の痛みや違和感であっても、適切な対処をせずに放置していると、いつの間にか深刻な状態に進行してしまうリスクもあります。そのため、早期からの適切な予防と対策が重要となります。
膝痛予防のために必要なのは、太もも前面の筋肉(大腿四頭筋)を鍛えること。太ももの前の筋肉は、体重や膝関節を支えているため、ここを鍛えることで膝への衝撃や負担が軽減されます。また、筋トレを行う際は関節も一緒に動かすことでより効果的に予防につながります。
身近な筋トレだと、スクワットがおすすめです。肩より少し広めに脚を開いて立ち、お尻を後ろに引き下げるようにゆっくりと膝を曲げていきます。筋力に不安がある人は、椅子や壁につかまって行ってもOKです。

少し膝に違和感を感じ始めたら、関節を動かさずに太ももの筋肉に働きかける運動を行っていきましょう。両足を投げ出して座り、つま先を上げて前ももの筋肉に力が入るのを感じながら5~10秒キープします。その後、力を抜くという動作を3~10回繰り返します。
このような筋トレやストレッチのほかに、水中での運動もおすすめです。水の浮力により関節への負担が軽減されるため、安全に運動することができます。水中でのウォーキングや水泳は、筋トレと有酸素運動の効果が同時に得られます。ゆっくりとした動作を意識しながら、運動してみましょう。
まとまった時間を取ることが難しくても、できるタイミングでコツコツと体を動かして運動量を増やしていく習慣を持つことが大切です。
膝への負担は、日常生活の中で知らずしらずのうちに蓄積されていきます。「まだ若いから大丈夫」と軽視せず、簡単なストレッチや筋トレなど、できることから少しずつ始めていくことが大切です。
継続的な予防と対策で、膝の健康を長く保つことができます。今日からでも、自分にできる簡単なことから始めてみましょう。
〈参考〉